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クラシック音楽を中心にしたポスト現代音楽のためのブログ


by ralatalk

史上最高の交響曲

うむむ。久しぶりに深く重い感動を味わえるCDに出合いました。
ショスタコーヴィチの交響曲第4番 ハイティンク&シカゴ交響楽団

この異様なジャケットの意味わかるかなあ。
このCDには、付録としてショスタコの交響曲第4番が作曲された時代背景についてのDVDが付いて来ているのですけど、当時のソ連の貴重な映像が満載されており、マニアは購入して損はないものだと思います。これって本当にオマケなのかという出来です。それにしても重いぞ、この交響曲。20世紀のソ連民衆の魂と人間の業を背負っています。
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 最近、テロとか、無差別殺人とか、子殺しとか、人を人だと思わない凶行が大いに流行っていて、まさにこのCDジャケットのような状態。人に対する無関心が呼ぶ悲劇。少し前は、マーラーの交響曲第9番が人類がつくった最高の交響曲と信じていたのですけど、今の時代を象徴しているのは、ショスタコの交響曲第4番なのでしょうね。これが、第8番とか第13番だということになると更に目を開けていられない状況なのでまだ救いがありますかね。

さて、さて、このショスタコの交響曲第4番は実に味わい深い作品で、何百回聴いても飽きがこないばかりか、より深く考えさせられるものがありますし、ヒラリー・ハーンもこんなことを語っているので、現在の人類にとって最高の交響曲は、ショスタコの第4番だと言い切ってしまいましょうか。
「私はクラシック音楽を聴きやすくして広めるという考えには同意できません。知らない人にできるだけ複雑なものを聴いてもらってこそ、クラシック音楽の持つ可能性というものに開眼してもらえると思うからです」

 さて、ショスタコの交響曲第4番は、実に複雑にできているため、1、2回、聴いてみたレベルでは、まったく理解ができないものだと思います。ネットをみているとかけ出しのマニアでは、かなり苦戦しているご様子。こんなときは、一回キャンセルして、ショスタコの他の交響曲を聴いてみると良いのだと思います。15曲もあるので、すべてを聴くのは大変でしょうから、先に聴いておくべき作品を以下に記述しておきます。
  1. 交響曲第11番
    まずはショスタコ・サウンドを知るための肩慣らし?。抑圧された民衆の祈りを聴けといったところでしょうか。普通は、5番を推薦することになっているのですが、5番はショスタコが本当に訴えたいところからは、距離があるような気がします。

  2. 交響曲第1番
    ショスタコが交響曲をどう捕えているのかを知る意味で推薦。余裕があれば2番もお薦め。こちらは交響曲への実験精神を知ることができます。

  3. 交響曲第15番
    最終回にあたる曲なんですけど、ショスタコの交響曲の諸作を聴いてこちらに戻るとわかることがあるのですね。つまり、リファレンスとして。特に第4番と関係が深いです。

  4. チェロ協奏曲第2番
    子供時代に見た夢。夢には楽しいものと悪夢があるのですが、その映像バランスが実に不思議なコンチェルトで、人によっては駄作と簡単に言い切って自慢している人も。でもこれはたぶん読みが足らないのだと思います。悪夢との関係において第4番と密接な関係がある気がします。

  5. ムツェンスク郡のマクベス夫人
    「20世紀の最高のオペラ」といわれていて、ショスタコとしての才能と技術のすべてがこの作品には凝縮されていますので、精力のある人体力のある人には大変お勧め。とは言え、これを全部聴くのは大変かも。ダイジェスト版も作ってくれれば良いのですけどね。悲劇が強調されていますけど、お間抜けで、おもしろい歌も多いです。よっぱらいの歌、最高です。

  6. マーラー交響曲第7番
    第4番を作るあたり、ショスタコが規範とした作品ということで。よくこの曲との関連については言及されますけど、表面的な部分での影響に留まっている感じがします。むしろ精神的に関連のあるのは、アルバン・ベルクの諸作品だと思います。

  7. アルバン・ベルク:ヴォツェック、ヴァイオリン協奏曲、抒情組曲
    第4番の響きは、マーラーよりもアルバン・ベルクの作品に近いものを感じます。アルバン・ベルクの音楽による心理描写は、とても細かいものがあると思うのですが、そうした個人の心理よりもさらに深い、ユングのいう集合無意識として置き換えて作った。つまり、今ソビエトで起こって居ることに対しての民衆の深層心理をえぐっているという点ですかね。


次に演奏ですけど、私が望んでいた通りの演奏で実にすばらしい。
この曲に関しては、暴力的な部分を強調するあまり細部が見えずらくなっている演奏が多いのですけど、遅めのテンポで細部のディテールにこだわった解像度の高い演奏なので、聴きたかった部分がばっちり聴こえてきます。特に第1楽章の超高速フーガの部分をテンポを下げてくれているので、各楽器間の絡みがよくわかって好印象。それとシカゴ交響楽団ということで、各楽器の主席の質がかなり高い。ソロの部分も安心して聴けましたし、かなり練習したのでしょうね。アーティキュレーションの統一もブレはなく音楽が自然にながれていきます。特にリズム感がすばらしい。堅いリズム、柔らかいリズム、軽いリズム、重いリズム、ルバートが研究されまくっていますね。さすがにハイティンク。こういう演奏でじっくりと聴いてみたかった。

スポーティにこの曲を聴きたい人には、向いてないと思いますが、じっくり細部にこだわって聴きたいマニアには、最高の演奏ですね。ようやくこの演奏で、この曲の本質に近づけたと思っています。

「ショスタコの歴史にまた1ページ」といったところですかね。
by ralatalk | 2008-09-28 02:59 | 音楽エッセイ