クラシック私だけの名曲1001曲
2007年 10月 01日
「クラシック私だけの名曲1001曲」宮城谷昌光 著
この本は、クラシック名曲解説本を卒業した人向けの日記のような解説本です。日記のように徒然なるままに、感情の赴くままに書いてあり、おもしろく読んでいます。まず好感をもったのが、なるべく有名作品は省いてくれていること。このことによりあまり知られていないマニアックな作品がたくさん掲載されるようになったことが、とてもうれしいかぎりです。どうせなら、バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、シューベルトなどのメジャー作曲家は邪魔なので、はずしてもらえればよかったのにと思ったくらいです。
選曲で興味のあるところは、モーツアルトがないということよりも、武満がいないことです。ここに興味をもって、邦人作曲家を調べてみると、以下の通り。
- 芥川也寸志 6曲
- 別宮貞雄 4曲
- 團伊玖磨 3曲
- 伊福部昭 10曲
- 平尾貴四男 1曲
- 北爪道夫 1曲
- 大栗裕 1曲
- 深井四郎 1曲
- 山田耕筰 2曲
- 矢代秋雄 3曲
- 吉田正 1曲
- 吉松隆 8曲
ヘンデル15曲、ミヨー16曲、プロコフィエフ24曲、シベリウス22曲、チャイコフスキー24曲、エルガー12曲、バルトーク16曲、サンサーンス15曲、ドヴォルザーク14曲、ショスタコ21曲。ちなみにバッハ、ベートーヴェン、シューベルトは、30曲以上。
これでこの人の好みは大体把握しました。
古典・近代音楽がお好みということですね。「了解です。」ということで読んでいきます。
まあ、それにしてもパンチの効いた解説。好きか嫌いか、駄作と思うのか、名作と思うのかかはっきり書いてあるので、この人の好みから、私の好きそうな曲をリストアップするのに役立ちそうです。
おもしろいところで抜粋してみると、
シャブリエ
十人中八、九人は狂詩曲「スペイン」を聴いて、シャブリエの最良の曲がこの程度のものかと、がっかりするに違いない。が、その曲は最良のものではない。
⇒おお〜。まったくそのとおり。ラヴェル先生も研究していた作曲家ですからね。
ニールセン
交響曲を持っている作曲家を知るには、その第一番を聴くのがもっとも良い。第一番にはその作曲家の過去と未来が凝縮されている。
⇒これも真理ですな。
ロゼッティ 交響曲 ト短調
当時の人々は、ハイドン、モーツアルト、ロゼッティとならび称していたらしい。その三大作曲家のなかのロゼッティはいつのまにか欠落して、二大作曲家になってしまったらしい。
⇒そうだったんですか!驚き。この人のト短調の交響曲は、モーツアルトのト短調交響曲と密かに比較しているのですね。楽しみですなあ。
ヴォーン=ウィリアムズ 交響曲第8番
ヴォーン=ウィリアムズは何か肝心なものを見落としているか、そういう視力をもっていないのだ。かれの交響曲には構図らしきものはあるが、本当の構図がない。
⇒「イスラエルよ言ってくれ。」というとこですか、ずばりきましたね。私もその通りだと思います。決定的な何かが足りないように感じます。
エルガー ため息
この曲を聴いていると、音楽家として、というより、人として、忘れてはならないものを忘れていないといういたってあたりまえのことが守られている。
⇒エルガーは、私にとっては退屈な作曲家なんですけど、それは感じますね。
コルンゴルト ヴァイオリン協奏曲
映画という虚構の世界とつきあっていると、たぶん生活感を失う。
〜略〜 その(音楽の)魂とは、生きかたの工夫に載っている。その部分でコルンゴルトには甘えがあった。
⇒するどい洞察。これがショスタコと天才ぼうやとの違いですかね。
ショスタコ チェロ協奏曲第二番
私的な感情をだしすぎる作曲家は、品格が低いといわざるをえない。
⇒喝!
恥じて、うしろにしりぞけ、ショスタコを憎む者どもは、みな。
(作曲家詩篇:129番より)。
難解で暗い音楽にいらいらしてのこの口調ですが、いつもの知的な辛口口調ですぱっと斬ってほしいところでした。著者もショスタコに関する記述では、褒めたり、けなしたり、かなり当惑しているご様子。万人にとってショスタコの真と理を知るのは難しい課題ですね。
↑ショスタコの4番とオペラを含む声楽曲をまったく無視しているため、評価に迷いと狂いが生じているのだと思います。
他にもたくさんのおもしろい記述があるのですが、紹介しきれませんね。個人的には、エネスコとか、シャブリエについて書いてくれているのがうれしいですね。
↑とても厚い本。本文で1020ページもあります。これってiPodで読めれば最高なんですけどね。