番外編:闘う資格
2007年 06月 29日
組織の命令は絶対だ。逆らえば粛清が待っている。夜中にドアをノックする音が聞こえたらそれで最後だ。で、困り果てた私は、北の地に隠居している組織のナンバー2のところに協力を頼むことにした。
私 :「はじめまして、ミーシャ。」
No2:「おまえは?。そうかあのときの。確か、ミッチーの全曲演奏会をすべて予約しているクラオタだなあ。」
私 :「そうだ。お前のことは、この『証言』ですべて調べてある。ペッテション狩りの当時のナンバー2。ナンバー3のマーラー、ナンバー4のチャイコ、ナンバー5のブルックナーともに戦いに挑むも、覚醒した奴の前に瞬殺されてしまったと聞いていたが、まさか生きていたとは。ともに戦いに行く気はないのか。」
No2:「同志ららトークよ。正直、私は怖いんだよ。聴いたことがある人ならわかるだろう。見よ、奴の6番を初めて聴いただけで、動かなくなったこの右手を。あれから私は、ハーモニーの気配を殺し、左手一本で曲を書いてきた。15番の最後は打楽器しか使っていないぞ。ところで、おまえは何ゆえに、奴の曲を聴きたがるのだ。」
私 :「そこに曲があるからだ。」
No2:「そうか。あの時、あの場で同じものを聴いて、前に進むか、退くか...。そこが、闘う資格があるかどうかの分岐点なんだろうなあ。いいだろう、おまえに≪死者の歌≫を教えてやるよ。」
(ここから死者の歌の修行。)
No2:「よいか。死者の歌は、音階中の12の音を部分的に覚醒させ、それを強大な調性の力で制御させている曲だ。精神を集中させるためにこの曲では、音程に難がある金管楽器や木管楽器を使っていない。そしてトドメをこのトーンクラスターで刺すのだ。」
私 :「何ていう暗い曲だ。お前は、組織の目を掻い潜ってひたすら覚醒者狩りに牙を研いできたというのか。」
No2:「どうだ。諦めるか。」
私 :「とんでもない。うってつけだ。今の私にはなあ。」
(ここから特訓モード、再戦。)
ペッテションとの戦い
私 :「今日こそおまえを八つ裂きにしてくれるぞ。」
ぺ :「あら。あなた。八つ裂きにされるのはどっちかしら。」
奴の交響曲6番を少し聴いただけで、かなり気分が悪くなる。熱も出てきた。
私 :「しっかり耳を塞ぐんだ。すべての聴力を逃走に費やす。」
と逃走するもすぐに捕まってしまう。
ぺ :「あら、あら、遅いのよ。遅すぎるのよ。あなた。」
ぺ :「よいこと。クラオタには楽器を演奏する『攻撃型』と、聴くだけの『防御型』があるの。クラシックをはじめて聴いたときに楽器を演奏したいと思ったかどうかが分かれ目なのよね。あなたは、攻撃型。攻撃型は、和音の予測は得意だけど、理論外の曲は苦手なのよね。」
ぺ :「だから、私が何を言いたいかというと、音程のない楽器。特にこのスネアドラムはどうかしら。勝ち目はあるかしら。」
私 :(う。和音がまるでみえん。打楽器だから音程がないのはあたりまえなのだが、この狂ったリズムは、私の先読みでどうにかなるものではない。勝ち目か、そんなものは最初から あるはずもない。そうか、ここであの技を使うんだ。)
私 :「12音剣~!クラスターモード全開!。」
ぺ :「奇妙な技。どこで覚えてきたのか知らないけど、それなりのナンバーをもつクラオタなんでしょう。でもこの無限の苦悩と苦痛に満ち満ちた和音とねっとりとしたリズムの前には無意味。なんせ私の師匠は、シェーンベルク先生の直系なのよ。」
私 :ぐわ~。
ぺ :「すごそうな曲があるから、珍曲だから、全曲が聴きたいからという理由でクラオタとして生き延びれるなんてのは、弱者の愚かな妄想なのよ。」
山の向こうからクロイツェルとNo.2
ク :「強大な和音がひとつ。小さな和音がひとつ。あら、あら。小さな和音は簡単に消えてしまったようだ。これはむごい。さあ、帰るぞ。」
No2:「ラマラの神よ。もし、おられるのなら。スウエーデン生まれのこの暗いオッサンにバレンボイムの慈悲があるんことを。天国のエドワード・サイードにもよろしく。」
終わり.....。