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クラシック音楽を中心にしたポスト現代音楽のためのブログ


by ralatalk

マンゼに学ぶ最新バッハ事情 その5

 いよいよ、バッハの無伴奏第6番のガボットに挑戦。今回の秘策は、名演奏家との共演。名付けて『B1012作戦』。作戦といってもCDに合わせてバイオリンを弾くだけなんですけどね。まずは、一番弱そうな、つまり速度が遅い、ユリウス・ベルガーで勝負。さて、やってみるか。

「参る。」

どっか〜ん! すぐに地雷に突入。なんとバロックピッチ。

「やるなあ。ユリウス・ベルガー。いきなりバロック・ピッチとは。さすがにバッハを極めようとする演奏家だけありますなあ。ならば、こちらも。」

ということで修正。442から415Hzへ。415Hz対策としてこちらは、裸ガット弦のToro弦で対抗。Toro弦は、442ではちょっとキツイと感じていたのですか、415なら余裕の低音。ちょっと膨らんだ感じが、チェロぽくてよい感じ。



「さて、仕切り直して、参るとするか。いざ、尋常に勝負。」

ムムムム。⇒ほとんど玉砕。ゆったりと弾いているのかと思いきや、結構テンポを変更してござる。8分音符が連続しているところで速度を速められては、こちらは手がいっぱい。むむ、完敗。まだ、まだ修行不足。とはいえ、チェロと合わせるのは結構、楽しいでござる。バイオリンの音が良く聴こえるので合わせやすいのでござるよ。癖になるかもです。

ところで後から気になってきたのですが、バロック・ピッチは何で415Hzなのかという疑問がわきました。バロック時代には標準ピッチは、なかったはずでしょう。それが業界標準になっているとはこれ如何に。

 私の予想だと、現在のチェンバロの調律に原因ありと思ったわけです。チェンバロの高級品には、トランスポーズ機能というのがついていて、440Hzを半音ずらして415Hzピッチにできるという優れた機能があります。つまりモダン楽器と合わせるときは、440Hzで古楽器と合わせるときは415Hzにするというものです。だから415Hzが業界標準ピッチになったと考えていたのですけど、ちょっとニュアンスが変。その時代の音楽を再現するためにオリジナル楽器や弓をコピー復元してまでも演奏するというマニアックな学者さんや演奏家が、こんなことで妥協するとはとてもおもえないからです。

で、ネットを調べてみたのですが、これといって415Hzがメジャーになった理由がわかりませんでしたので、図書館でしらべてみたところこんな本があったのでよんでみました。

「バロックから初期古典派までの音楽奏法」橋本英二 著
※演奏家必読のすばらしい内容の本で、これはほしくなりました。
マンゼに学ぶ最新バッハ事情 その5_b0046888_2124827.jpg

この本によると以下のようです。

まず古楽器が低いピッチを使う理由は、高いピッチを使うと弦が張り過ぎて響きがゆたかでなくなり、弦(ガット弦)も切れやすくなる。調律を保つ難しさもありマイナス面が多いとのこと。

ちなみにバロック時代では、『標準ピッチ』というものは存在せず、歌手の歌いやすいピッチにするか、楽器の性能に依存していたとのこと。おもしろいことに合唱ピッチ(独語:コールトーン、英語:チャーチ・ピッチ)と室内ピッチ(独語:カンマートーン、英語:チャンバー・ピッチ)というのがあり、合唱ピッチは室内ピッチよりも長2度から短三度高いとのこと。
で、カンタータなど、歌付きオケ曲の場合は、どうなっていたかというと、合唱ピッチと室内ピッチが混在して使われていたとのことで、ピッチを可変できないオーボエ、ファゴット、リコーダーなどは、移調して演奏していたとのことで、ご丁寧にもBWV71のカンタータ71番が譜例として掲載してくれていました。

「なるほど、なるほど、ハ長調の楽譜なんだけど、オーボエとファゴットは室内ピッチなので1全音高くせねばならずニ長調へ移調。バロックトランペットは、合唱ピッチの楽器なのでハ長調のまま。それから弦楽器はハ長調のまま。え!。ウソでしょう。460Hzピッチ!ですか。弦が切れますよ〜。」

この合唱ピッチって何? ということでさらに調べてみると、どうやら教会のオルガンのピッチに関係が深いようでして、これがまた問題。教会の室温によってピッチが450〜470になるとのことだし、さらにオルガンの調律は非常に難しかったらしく、信じられないような記述が。

「オルガンのピッチは改造、調律のたびにどんどんあがっていく。」

「何ですと!」


 調律のたびにごとにパイプを短くしたのでピッチがどんどんとあがり、いよいよ高過ぎて使い物にならなくなると、全部のパイプをひとつずつずらせて風穴に据え替え、最低音には、新しく最大のパイプを付け加えたとのことです。ついでに無慈悲にもこんな記述が、

「オルガンにあわせる歌手や管弦の楽器奏者の苦労は格別だった。」

そりゃそうでしょう。まさに楽器殺し。おそるべしオルガン。

ドイツのオルガンの最初のころのピッチは、合唱トーンよりもさらに高いコルネット・トーンというのが普及したそうなんですけど、これだと歌手が死にますということで、合唱トーンとなり、これでも高いということで、半音下げて室内トーンになったとのこと。なるほど、これで少し納得。

そして1711年にようやく音叉が発明され、ヘンデルは、425の音叉を持っていて、モーツアルトもこれと同様なものでピアノ調律をしていたらしいとのことで古典派は、425が基準になったようですね。それからロマン派の時代になってからどんどんとピッチがあがり、455くらいまでピッチがあがったらしいのですが、これではワーグナーが歌えないということになり、喧々諤々と、標準ピッチを決める交渉が各国であったようなんですけど、結局、440に決定するには、1939年のロンドン会議まで待たなくてはならなかったようですね。

上記のピッチのお話は、かなりはしょって書いていますので、興味のある方はご本をお読みください。これだけで一冊の本になるくらいの内容になってしまうので深追いは禁物。とりあえずバッハは、歴史的経緯もふまえ室内トーンの415〜430Hzで弾きましょうというのが結論ですかね。と書くと各方面から議論が出てくるのでしょうね。
by ralatalk | 2008-08-09 21:36 | 音楽エッセイ