クラシック音楽を中心にしたポスト現代音楽のためのブログ


by ralatalk

我、思う。故にマンゼあり

アンドルー・マンゼ。

来日時の演奏を聴いて、「我、思う。故にマンゼあり。」と悟る。
今世紀最高のバイオリニストの一人といってよいバイオリニスト。

完璧型のバイオリニストといえば、ハイフェッツ、ミルシティン、パールマン、クレメル、
ヒラリー・ハーンとかいろいろといらっしゃるのですが、そのタイプに属さない新型のタイプ。
楽曲に対する学術的な深い理解と洞察を反映した細密なアーティキュレーションをベースに、ジャズ的ともいえる自在な即興力を加えているのがもちあじ。

他の演奏家に例えるなら、グレン・グールドのような発明的演奏家に近いのですが、それとも違うタイプ。天才を誇示するような気難しいタイプではなく、いつもは平凡なやさ神父さんなんですけど、ひとたび演奏すれば、難しい教義を、魅力的な語りによって説明し、相手を引き込んでいくタイプですね。




今回は、バッハに関して、以下を聴いてみましたが、新解釈のバッハというよりは、バッハ音楽の真髄そのものであるかの印象をうけました。

  1. ヴァイオリン・ソナタ全集 マンゼ(vn)エガー(cemb)テル・リンデン(gamb)

     ヴァイオリン・ソナタ ロ短調 BWV1014 
     ヴァイオリン・ソナタ イ長調 BWV1015 
     ヴァイオリン・ソナタ ホ長調 BWV1016 
     ヴァイオリン・ソナタ ハ短調 BWV1017
     ヴァイオリン・ソナタ ヘ短調 BWV1018
     トッカータとフーガ ニ短調 BWV565
      ~ヤープ・シュレーダー&アンドルー・マンゼ編によるヴァイオリン独奏版
     ヴァイオリン・ソナタ ト長調 BWV1019
     ヴァイオリン・ソナタ ト長調 BWV1019
     ヴァイオリン・ソナタ ト長調 BWV1021
     ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 BWV1023
     ヴァイオリン・ソナタ ハ短調 BWV1024

  2. バッハ:独奏と2つのヴァイオリンのための協奏曲集

     協奏曲ニ短調 BWV1043(2つのVnのための)⇒いわゆるドッペル 
     協奏曲第1番 イ短調 BWV1041 
     協奏曲第2番 変ホ長調 BWV1042 
     協奏曲ニ短調 BWV1060 (2つのVnのための)⇒これ貴重。もう一つのドッペル

     ラヒェル・ポドガー(Vn) アンドルー・マンゼ(指、Vn)古楽アカデミー

バッハ演奏においては、作曲家バッハと演奏者との果し合いというところに重点がおかれて弾かれる傾向にあり、難行、苦行、荒行の成果としての音楽が聴こえてくるのが普通なんですけど、マンゼの場合は、作曲家バッハのそのものの魅力をわかりやすくお話しするという感じで演奏が進みます。

 通常は、学術的な演奏をすればするほど、音楽がパリパリと乾燥してくるのですが、マンゼの場合は、まるで逆。現代作曲家としてのバッハが、今まさに新曲を披露しているかのようにみずみずしい音楽を演奏されているのが、なんとも不思議。相棒のエガーから放射される明るい響きも、相当な相乗効果を生んでいるものだとも思います。

とりわけ、BWV1017とBWV1018のラルゴやラメント、アダージョなどの緩やかな楽章でみせる歌心というか、バイオリンが人の声であると錯覚しそうな、ゆらぎラートとと、意外なところでみせるポルタメント奏法に、感嘆したものです。このような表現は、器楽専門にやってきた人ではなしえない芸当です。ゆえにバッハの声楽の研究もかなりされているという奥深さも感じました。このところ、カール・リヒターのバッハとも通じるものがあると思いますが、威厳のあるリヒターのスタイルではなく、もっと自由に歌ってよいよという溌剌とした表現になっているのが好印象。

 音色に関しては、かなり豊富で、おなじフレーズで同じ音色にはせず、アーティキュレーションもすごく細密に変えてきています。最初に出てくるフレーズが実体とすると次のフレーズは影であると考えているかのよう。そういえば、BWV1017のラルゴは、マタイ受難曲の有名なソプラノのアリアから引用があるのですが、まさに歌手がうたっているかのような表現。深い悲しみの音楽。言葉になる言葉と、言葉にならない言葉。心のゆらぎ。これを意識してか、バイオリンの音色も変えてきています。

 バイオリン協奏曲の方も特に第2番が秀逸。これほど大胆に演奏しているとは。クラシックの不文律である楽譜どおりという掟をやぶり、思い切った装飾を入れてきていますし、再現部に入るバイオリンソロの部分で減速、たっぷりと弱音による静寂を入れます。通常、こんなことをやると嫌味な感じもするのですが、これが実に自然。バッハがそう望んでいるかのような演奏。リズム感も他の奏者と違ってジャズ的なノリも入っていて、ここち良い。

 当面は、マンゼの演奏があれば、他の人のバッハはいらないという感じ。これから出てくるであろう、無伴奏のソナタとパルティータも想像をはるかに超える演奏になるのでしょうね。
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by ralatalk | 2008-06-24 18:26 | 音楽エッセイ