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クラシック音楽を中心にしたポスト現代音楽のためのブログ


by ralatalk

感動のフリッツ・クライスラー伝記

「バイオリンの芸術(Art of Violin)」というドキュメンタリは、私の大のお気に入りでして、HDレコーダーに撮った映像を何回も繰り返して観ているのですが、その中で特に興味をもった演奏家は3人います。

・ナタン・ミルシティン
・ジネット・ヌヴー
・フリッツ・クライスラー

 ミルシティンの場合は、独特の張りのある美しい音色、そして楽曲に対する細かな工夫というところと、口は悪いが凄腕の職人というところに惹かれ、実際に彼の演奏したCDを何枚か購入してみました。それは、期待以上の出来で、音楽的に多彩でものすごく高い次元にいた人だったのだなあとすごく感心しております。






 ジネット・ヌヴーは、音楽に対する情熱が熱すぎて、やけどしそうという感じがたまらないです。この人のCDはまだ数枚しか聴いていませんが、30歳で飛行機事故で亡くなったことは、クラシック界にとってものすごい損失だったのがわかります。

 クライスラーの場合、最初はあまりピンと来なかったのですが、映像を繰り返しみていると何か心に惹かれるものがあります。
 特に映像が、病院で患者さんを見舞い、そこでバイオリン演奏をしているというものでして、この部分が妙に引っ掛かります。こうした映像には、宣伝であるとか、偽善的行為というのがありますけど、流れて来る音楽には、そのような汚れたものが微塵も感じられなかったことと、その純粋性においてそこに鳴っている音楽はまさしく本物の癒しとしての音楽だったからです。
 クライスラーの場合は、悪戯好きで、少し奇行が目立つ人だったようなので、そのようなおもしろい人物としてとらえられすぎているようなのですが、その伝記を読んで、まさに驚愕してしましました。

 ※有名なところとしては、過去の作曲家のアレンジとして紹介して演奏していたのですが、後年になって「実は、あれは私のオリジナルですよ。」とかいって音楽評論家を激怒させた事件とか、自分のバイオリン(ガルネリ)を質屋さんに持ち込んで冗談で売ろうとして、バイオリンをみてビックリした店主が警察に通報。身分を証明できなかったクライスラーは危うく警察のご厄介になりかけたところ、バイオリンを演奏して身分を証明したという逸話。

 おそらく数ある音楽家、否、すべての芸術家の中においても、もっともドラマチックで感動的、人間としての生き方のある意味理想ともいえるべき人生。おそらく生涯、音楽家としての使命感を忘れなかった人のみが達成できるもので、この人の清い人生を比較するとしたら、音楽家としてはシュバイツァ、ある意味、イエス・キリスト的ですらあります。

こうした人の作品ですから、今日まで愛されつづけて演奏されているわけもよくわかります。ここにおいて私がクライスラーに惹かれていたものの何かが、ようやく少しはわかるような気がしてきました。

43人の戦災孤児を引取り、子供たちを食わせるために演奏を続けたとか、こういう背負うものがある人は本当に強いです。
※何か昔に見た、アニメのタイガーマスクを思い出しました。

クライスラーの伝記について、あれこれ書くには力不足なので、四足門咲ニ(よしかどさくじ)さんのお書きになっているサイトを紹介しておきます。極めて優れたレベルの高い文章で、読んでいて涙が出そうになりました。

「クライスラー小史」

※こういう伝記を小学校の道徳の時間にでもやればいいんですけどね。本来、人間が何をすべきかの良い教材になります。でも現実は、株の教育ですからね。
by ralatalk | 2006-02-28 01:29 | 音楽エッセイ