クラシック音楽を中心にしたポスト現代音楽のためのブログ


by ralatalk

最高権威、降臨。ヨーロッパ・サウンドを教え給う

本日、古楽界の大長老にして最高権威、フランス・ブリュッヘンのハイドンを聴いてきました。それにしてもさすが大長老、コンサートホールはほぼ満員でした。ブリュッヘンと言えば、18世紀オーケストラの主催者にして、ピリオド奏法の大権威。現在のオーケストラのサウンドを根本的に変えってしまったくらいの強力なインパクトがあるため、間違いなく西洋音楽史に残る大芸術家&研究家であります。まあこんな仰々しい解説で、わざわざ私が宣伝する必要もないでしょう。ブリュッヘンの最新鋭のハイドン演奏とはいかなるものなのか?これが楽しみで錦糸町のトリフォニーホールへ、いざいかん、ハイドン祭りへ。




●ブリュッヘンのハイドン
“ロンドン・セット”全曲演奏会(全4回)
指揮:フランス・ブリュッヘン 新日本フィル
コンサートマスター:雀文洙
すみだトリフォニーホール

第1回 2月11日(水・祝)開演15:00  
交響曲第96番ニ長調「奇蹟」Hob.I−96
交響曲第95番ハ短調Hob.I−95
交響曲第93番ニ長調Hob.I−93

聴きどころはいろいろありますが、押さえ所は以下です。

・新日本フィルがピリオド・アプローチにどれだけ対応できるのか?
・ブリュッヘンのハイドンに関する新解釈はあるのか?
・ブリュッヘンをみるのは日本では、これで最後かもしれないぞ!

まずは、新日本フィルのピリオド・アプローチに対する対応なのですが、弦楽器に関しては、なかなかいいところまでいっていますね。ノン・ビブラート奏法がさまになっています。ノン・ビブラート奏法に関しては、もはやハイドンやモーツアルトの演奏では常識でしょう。従来の過剰なビブラート奏法のおかげで、楽曲が台無しになる場合が多いため、私は、古楽アプローチでないとハイドンやモーツアルトは聴く気がしないのです。

特にこの奏法で、バイオリンソロやチェロソロが入ったときの、古風な感じが特によいのです。今回、交響曲95番でみせてくれたチェロ主席のなんともいえん下手ウマなソロが味があってよろしい。何でもかんでもうまく弾く必要なんてない。劇中で出てくるお爺さん役の役者が、NHKのアナウンサーのようなしゃべり方をしたら劇が台無しですからね。ぽつりぽつりしゃべるお爺さんの声みたいなフレーズが終ったら、それに感動したかのようにオケのツッティが入るのが、味わいというもの。ハイドンはこういうところのさりげない表現うまいんですよね。

そうそうそういえば、交響曲95番の第3楽章で事件が勃発しましたね。興味深いので後で書きますね。

ノン・ビブラート奏法にするということは、ある意味、オケの美点をマイナスにするということなんですが、失うものがあれば、得るものありです。アーティキュレーションの精度を高めるということなんでよね。鋭いスタッカートやリズム、強弱、適切なスラー処理。音色の探求。これこそが弦楽の原点であり最新古楽演奏の醍醐味。とにかく発音をくっきりさせることにより、よりすがすがしい表現を得ようとするもの。
また音程も厳しく追求されることになるので、演奏が音楽の原点により近くなります。「正しい奏法で正しく演奏する」ということが、ブリュッヘンなどの古楽演奏家が求めてきたこと。

それにしても、いいですね。この響き。日本のオケが、古くからある伝統のヨーロッパオケに変身です。技術偏重の日本のオケがいくらがんばっても得れなかった響き。これをブリュッヘンは持ってきてくれたのです。大いに感謝です。

でも課題はたくさんあります。まずは管楽器の音色なんですけど、こうした弦楽の音に合っていない音。つまりきらびやか過ぎる感じがするのです。ハイドンなのにリヒュアルト・シュトラウスが混ざっているような感じ。特にオーボエ、ファゴット、ホルン。できることならオリジナル楽器での演奏を望みたいところでですが、難しいところでしょうから、音色に関して、最新古楽演奏に合うように研究してほしい気がします。例えば、オーボエとかファゴットならリードを薄いものにするとかして対応できそうな気がしますし、ホルンならダブル・アクションをやめてシングルホルンを使うというようなことをやってほしい気がします。

またティンパニなんですけど、音色に関して、もっと打楽器奏者らしいこだわりをもって追求してほしい気がします。具体的には、プラスティックのようなサウンドでかなり興醒めのサウンドでした。特に目立つのは、トレモロ奏法のところで、妙な余韻が残るのですが、これは改善の余地ありと思いました。できるなら本革を使ってほしいところです。

ブリュッヘンのハイドンに関する新解釈については、このところは私の勉強不足もあって、良くわからない部分もあるのですが、全体的にオーソドックス。楽譜に忠実なのだろうと思いました。ここのところ、ハイドンの演奏もかなり進化して来ているので、次の世代に期待ですね。カルミニョーラなんかが、指揮するとどうなるのか、10年後くらいの楽しみですね。

最後に、大長老、ブリュッヘン。随分老けましたね。おそらくこれで見るのは最後でしょうから、しっかり目と耳に焼き付けとこう思います。ということで次回のチケットもとっておきました。

●追記
事件勃発。ハイドンの交響曲第95番の3楽章でコンマスの隣の奏者の弦が切れてしまいました。まあここまではたまにある話。で驚いたのが、この奏者は、あわてたのか、楽曲演奏中にもかかわらず急に立ち上がってつかつかと舞台裏へかけ出していきました。「おい、おい、そんなに早く歩いたら舞台に靴音が響くじゃないか!」と思っていたら、本人も我に返ったようで、ゆっくりと舞台裏に引き揚げていきました。

オーケストラの教科書によると、弦が切れた場合、後ろの奏者の楽器を交換して渡すというのが正式な対応のはず。いきなり立ったりすると、最悪、演奏が止まる場合もあるので、これは暴挙に近い愚行。ということは本人自体もわかっているでしょうから、ここでは咎めません。書きたかったのが、コンマスの見事な対応。

コンマスの雀さんは、この事態に何でもなかったように平然としておりました。心配になったのは、譜めくりをどうするのかという点です。コンサートマスターというのは、第二の指揮者。腰が悪いブリュッヘンをサポートするためにも譜めくりするわけにはいかないのです。さて、さてどう対応するのかはらはらしながら見ていたのですが、何と雀さんは譜めくりせずそのまま演奏。暗譜で最後まで弾いたのですね。

「さすが一流のコンマス!これぞ本物のプロ。」
これには、すごく驚いたし、むちゃくちゃに感動しました。

いかなるときにも動じない。冷静なる対処。プロ・オケのコンサート・マスターのすごさというのをまじまじと見せてもらうことができました。

●蛇足
交響曲第95番ハ短調Hob.I−95。ほれぼれするくらい、いい曲ですね。ベートーヴェンもこの曲を研究したのでしょうかね。全楽章がハイドンの霊感に満ちあふれておりますね。すばらしい。
[PR]
by ralatalk | 2009-02-11 22:46 | コンサート