クラシック音楽を中心にしたポスト現代音楽のためのブログ


by ralatalk

未完の魅力

ヒラリー・ハーンの相方のピアニスト、ヴァレンティーナ・リシッツァのことが、どうも、どうも気になって仕方がないので、ついに彼女のコンサートに行くことにしました。今回、1回だけのリサイタルということで、聴き逃すととても後悔するのではないかと思ったからです。
 ヒラリー・ハーン相手によくぞ合わさず、己を貫き通したという女振りにとても感動したわけです。



会場はほぼ満員。いつもと違っていろいろな客層がいるみたいです。とくに若い人が結構いたのがうれしい。評論家さんも結構来ているみたいだし、やはり注目されているのですね。最近、ピアノ界には生きのよい新人が少なくなっているので、久々の大物という感じで注目度が高くなっているのでしょう。

まずはプログラムパンフに目を通してみますと、オカルト系のぶったまげた記述になっており、何か新しい評論家さんが書いているのかと思ったら、リシッツァの文章とのことで、なるほど、「不思議ちゃん」やりますなあという感じでした。

さあ、いよいよリシッツァのお出ましです。黒の長いドレスで床を引き摺りながら、手をぶらぶらとして、ノソノソと歩いて来ます。ここマイナスなんですけど、何か品がないのですね。せっかくの美人なのだから、イギリスの貴婦人のように歩いてほしいのですが、舞台慣れしていないのかもしれません。

でも、そんなリシッツァでも、ひとたびピアノの前に座るとしばらくじっと神経を集中しており、武士の居合切りくらいの緊張感があります。第一曲のラフマニノフから思いっきり飛ばしていきます。

かなり強靭なタッチと高速な指使い。ガンガンと鍵盤を打ちまくります。この音量、全盛期のポリーニよりもすごいのかもと思って聴いていました。少々、狂気ぽい感じもしますが、プログラムにも狂気のことを書いているので、まさにそういう感じで弾いているのですね。彼女の場合、曲のイメージがすでに強力に頭にあるようで、そのイメージに憑依して弾いていると言う感じです。

続いて、ベートーヴェンの熱情。リシッツァは、情熱で弾くタイプなので、この演奏は好き嫌いが別れると思います。かなり荒めの演奏で、ペダルを踏みっぱなしにする箇所が多いのが気にいらないでところです。

シューマン:子供情景

単に粗っぽい弾き方だけではなく、やわらかい感じのイメージもきっちりあるのですね。シューマンはあまり聴かないのですが、それなりに良い演奏だと思いました。少々テンポが早い感じがしましたがこんなものですかね。

タールベルク:ロッシーニの「セビリャの理髪師」の主題による第幻想曲

こうした超絶技法を要求するハデハデな曲は、リシッツァのためにあると言って良いくらいでして、猛烈な勢いで弾き切りました。それも楽しそうにです。でもこれで驚いてはいけないのですね。

リスト:死の舞踏

今夜、圧巻だったのが、この曲。冒頭から怪獣がピアノを踏み付けているかのような轟音。ものすごいスピードと力で弾きまくっています。それにしてもこの曲をこの速度で弾いてしまえるとは、まさに人間を越えた野獣ですね。ピアノが壊れるのではと思ったくらいです。

アンコールは有名どころを4曲ほど。

総括としては、技術力は相当高いものがあり、音楽に対する直感的なひらめきに良いセンスをもっていると感じました。ただ結構、表現にムラがありますね。楽曲をイメージ先行で演奏し過ぎているので、少し表現が幼い部分が気になります。これがもう少し熟成してきて、ミケランジェリのような方向に進むとかなり大物ピアニストになる気がしますが、これには時間がかかる感じがします。そういう意味では、ヒラリーと組んでいるということは、彼女にとっては非常によいことなのかもしれません。

それと、この人の場合、他者とのインタープレイに非凡なセンス(闘争心?)があるので、ソロのリサイタルよりも、デュオやコンチェルトの方が向いている気がしますので、日本のオケに是非とも呼んでほしいソリストですね。曲としては、ラフマニノフの3番のコンチェルトとか、プロコフィエフあたり。そんな手垢のついた曲よりも、モシュコフスキーのピアコンとか、大澤寿人の第3番のピアコンでど派手かつ華麗に演奏してもらいたいところです。
松村禎三のピアコン1番あたりで聴けたら、個人的には最高ですね。リシッツァのもつ狂気ぽさが良い方向に作用すると思います。

ということで、久々の大物登場。今後に大いに期待しておこうと思います。

●プログラム
トッパンホール:2009/1/19(月) 19:00開演

  1. ラフマニノフ:練習曲集〈音の絵〉 Op.39より 第6番 イ短調
  2. ラフマニノフ:〈10の前奏曲〉 Op.23より 第5番 ト短調
  3. ラフマニノフ:〈13の前奏曲〉 Op.32より 第5番 ト長調/第10番 ロ短調/第12番 嬰ト短調
  4. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番 Op.57 〈熱情〉
  5. シューマン:こどもの情景 Op.15
  6. タールベルク:歌劇セヴィリアの理髪師の主題による幻想曲 Op.63
  7. リスト:死の舞踏(ピアノ・ソロ オリジナル版)


●追記
 ヒラリー・ハーンとリシッツァ。これほど違う個性どうしでの演奏というもの実におもしろいですね。お互いに合わせないで、主張しあうところに音楽の生命力がやどっています。どこで折り合うのか、こちらとしてもハラハラしながら聴いていました。何年かたてば、うまく発酵した香り高い演奏になってくるのでしょうから気長に楽しみにしておきます。
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by ralatalk | 2009-01-20 00:31 | コンサート